大西翔太氏
徳島県出身。同志社大学理工学部卒。大学時代に1年間ニュージーランドへ留学。ベンチャー企業を経て、東京に本社を置く、株式会社ダンクソフトへ転職。徳島市内のオフィスで勤務。現在は、株式会社神戸デジタル・ラボのセキュリティチームに所属し、ITセキュリティ業務に従事。平成29年に徳島県のイクメン・カジダン賞受賞。
松坂智美氏
幼少期は神奈川県で過ごす。8歳のときアメリカへ父の転勤に伴い渡米。16歳で単身帰国。上智大学経済学部を卒業後、人材教育コンサルティング会社に入社。秘書業務や在庫管理業務、法務業務を担当。36歳で人材教育コンサルティング会社を退社し、AYAクリエイティブを設立。2021年10月に家族とともに神山町へ移住。二児の母。
松坂智美:正解のない新しい働き方を、様々な目線で考える新しい働き方ラジオ。
本日は、徳島に居住しながら、神戸に本社がある神戸デジタル・ラボにてITセキュリティ業務を行う大西翔太さんにお越しいただき、新しい働き方についてお話を伺ってまいります。
大西さんは、徳島のイクメン・カジダン賞を受賞されたこともあるそうです。本日はよろしくお願いします。
大西翔太:よろしくお願いします。大西と申します。徳島県阿南市在住で、神戸にあるIT企業でセキュリティエンジニアをしています。よろしくお願いします。
松坂智美:先ほど簡単にご紹介しましたが、セキュリティのお仕事をされているのですね。どのようなお仕事をされているのでしょうか?
大西翔太:セキュリティに関しては幅広く行っています。例えば、ウェブサイトやウェブアプリにセキュリティ上の欠陥がないかどうかを調査、分析します。また、セキュリティ事故が発生した際に、セキュリティ事故の収束に向けて支援するなど、なぜ事故が起こってしまったのかというところを、再発防止の観点から原因調査しています。
プライベートでは、地方のセキュリティ意識向上を目的として、サイバーセキュリティに関するコミュニティを徳島県で立ち上げて、月に1回ほど勉強会を開催しています。
松坂智美:そうなのですね。これから、徳島でもセキュリティ分野が広がりそうですよね。大西さんは元々、学生の頃からIT関連のお仕事にご興味があったのですか?
大西翔太:学生時代には、あまり興味がありませんでした。大学の授業で、まずプログラミングに触れて興味を持ち始めました。高校生まではずっとサッカーをしていて、サッカー中心の生活でした。
しかし、大学生活の中で1年間休学をして、ニュージーランドで生活する機会に恵まれました。その中で、海外留学を通して自由な生き方や独立心をもって生きる、働くことを考えるようになりました。人種も多国籍で移民も多く、他国の同世代のハングリー精神のようなものに感銘を受けました。自由に生きることを知り、その経験を基に帰国後は一般企業に就職というよりは、ベンチャー企業に就職したいという思いが芽生えました。
就職活動においては、就職イベントなど集団で一斉に就活を行うことに疑問を感じていました。スタートアップの関西のベンチャー企業に、大学4年生からアルバイトで行くようになり、そのまま就職しました。
松坂智美:そうなのですね。ニュージーランドで留学されていた生活によって、新しい働き方へのイメージに繋がったのかなと思います。就職後は、非常にハードワークだったということで、退職されたのでしょうか?
大西翔太:そうですね。過酷な労働環境でして、いわゆるブラック企業でした。深夜まで働くことが当たり前でした。そして、会社の信頼性がないと感じることもあり、半年で退職しました。
松坂智美:その中で、なぜ都心ではなく、徳島へUターンしようと思ったのですか?
大西翔太:転職活動をする中で、いつか徳島を運営するムツビエージェントの中西さんから、ご連絡を頂く機会がありました。
正直なところ、徳島への転職を考えてはいませんでした。また、徳島に転職先はないだろうと勝手に思い込んでいた部分がありました。しかし、いつか徳島さんが徳島に特化しているという点で、他の大手企業ではなかなか紹介されないような地場産業を紹介していただけるというところに魅力を感じて、中西さんにご連絡しました。
松坂智美:そうだったのですね。当時は、東京に本社を構えながら、神山町にもサテライトオフィスがある、株式会社ダンクソフトに入社を決めたということですよね。10年前のお話だということですが、当時はかなり先進的な事例だったかと思います。リモートで働く、テレワークはいかがでしたか?
大西翔太:そうですね。ダンクソフトは、徳島で神山サテライトオフィスをスタートした先駆けの企業です。川に足を突っ込んでPC作業をするといった、神山でもどこでも働けるイメージの写真はダンクソフトのものだと思います。
ダンクソフトでの仕事内容は、Sier、受託開発、自社システム開発をしていました。システム開発をしていたのですが、約10年前にはサテライトオフィスの実証実験もかなり行っていました。その際に、阿南市でサテライトオフィスの実証実験を行ったときに、ゴルフ場の会議室を借りて業務をしたことがあります。約10年前なので、テレワークも浸透していない時代でした。
サテライトオフィスの実証実験は、何もない所からスタートでしたが、ネット回線と常日頃から実践しているテレワークのスキルがあれば、何の問題もなく仕事をすることができました。PC一つあればどこでも働けることが分かり、社員数名はゴルフを楽しむ方もいて、仕事もとても楽しんでいたと思います。こちらの実証実験の結果、サテライトオフィスが阿南の科学センター敷地内に設立されました。他のメンバーはこういったテレワークの推進を全国で行っていました。こういった、サテライトオフィス、テレワークを推進する企業で働く中で、自身も在宅勤務で働くベースができたのだと思います。
また、テレワークについては、当時はすごく珍しかったと思います。出社するのが当たり前だった時代でしたので、テレワークや在宅勤務は新しい、珍しい働き方だったかなと思います。自宅から在宅勤務する機会も多く、常に家にいましたので、近所の方には大西さんって本当は仕事していないのではないかと思われていたかもしれません。
松坂智美:そうなのですね。当時、お仕事をされる中で、平成29年に徳島県のイクメン・カジダン賞を受賞されたということですが、おめでとうございます。ちなみに、イクメン・カジダン賞は、現在はチーム育児賞として、バージョンアップ しているそうですが、当時はどんなことが評価されて受賞されたのでしょうか?
大西翔太:そうですね。イクメン・カジダン賞は育児や家事に積極的に取り組んでいる方を表彰するという賞でした。上の子が生まれてすぐに自宅でテレワークする機会を増やしてもらい、週に4日ほどは自宅で働いて、週1日はサテライトオフィスに出社するという働き方にしました。評価された点としては、仕事の質を落とさずに、積極的に家事や育児に参加できているということだと思っています。
松坂智美:大西さん自身は、家事・育児に積極的に担うことについてどのようにお考えですか?
大西翔太:そうですね。もともと家事・育児についてはしたくないとは思っていませんでした。環境が在宅勤務ということもあり、自然な流れで家事育児をしていました。特に意気込んで、参加しようとも参加したくないとも思っていませんでした。そして、家事・育児に積極的に参加するということは、当たり前のことだと思っていますし、非常に重要なことだと思っています。私も、在宅勤務をするようになってからは、子どもの着替えや登園の準備をするようになりました。
松坂智美:現在はお子さん3人もいらっしゃるということですが、今、何歳ですか?
大西翔太:上の子が6歳で下の子が2歳の男女の双子になります。
松坂智美:それは大変な時期ですね。双子の育児は特に大変だという風に聞きます。2歳ということは、すごく大変な時期かなと推察します。では、共働きを両立して、奥様も働いていらっしゃるということですか?
大西翔太:そうですね。妻は看護師をしています。責任もあり、ハードな仕事ですが、仕事と家庭を両立できて、3人の子どもを育てることができています。双子の育児については、夫婦が協力しながら育児をしていたので、大変さはそこまで感じていませんでした。
松坂智美:在宅ワークで、夫婦で協力されながらお仕事をしていたのですか?
大西翔太:そうですね。当時から在宅勤務でしたので、風呂入れ、おむつ替え、ご飯づくり、保育園 の送迎も行い、一通りの家事はしていました。
現在もテレワークや在宅勤務のおかげで、妻と協力しながら共働きを実現できています。 例えば、子供が家にいる時間帯だったら、子供の泣き声が少し聞こえると、少し業務を中断して様子を見に行くこともあります。あとは、休憩時間を柔軟にとれるので、休憩をとって子供とお風呂に入り、晩御飯を食べています。そして、子供が寝た後に休憩から戻って、業務を再開するというワークスタイルが多いです。
松坂智美:柔軟に対応できることが、素晴らしいですよね。やはり女性が仕事と家庭を両立 していくには、夫の家事・育児の参加が非常に重要だと思います。また、在宅ワークだからこそ、育児・家事がしやすいという環境になっているのではないかと思います。また、在宅ワークで、家事・育児の状況がよく見えているから、家庭内のチームで一緒にやっていこうとなりやすいのかもしれませんね。奥様は、夫婦の子育てについてなんと仰っているのですか?
大西翔太:そうですね。在宅勤務だからこそ、業務中にちょっとした家事が頼め、子供から少し目を離したい時に、子供を見てもらえるので、安心感があるとコメントをもらっています。
松坂智美:そうなのですね。世の女性のコメントは、きっとそうだろうなと思います。大西さんのように、家事・育児に参加されている男性も、リモートワークが増えてきたこともあり、すごく増えていると思います。しかし、家事、育児にあまり参加しない男性も多いと思います。大西さんは、実際に家事・育児されていますが、男性が家事育児をすることのメリットや楽しさや、やってよかったなと思うことはありますか?
大西翔太:そうですね。少しありきたりかもしれませんが、子供と過ごす時間が多いので、成長を間近で実感することが良かったことだと思います。あとは、家事・育児を共有することが妻とできるので、会話する頻度や時間も増えているのではないかと思います。
松坂智美:そうなのですね。いいですね。所属する神戸デジタル・ラボというのはどんな会社なのですか?
大西翔太:神戸デジタル・ラボは、社名の通り神戸を拠点にしているIT企業です。冒頭でもお伝えしましたが、阿南市の自宅からフルリモートで働いています。そして専門は、サイバーセキュリティです。主に、企業のセキュリティ対策の支援を行っています。
ただ、サイバーセキュリティとは、少し特殊な職種なので、徳島はもちろん、四国内にあまり求人がなく、四国外の企業に勤めているという状況です。
松坂智美:なるほど。神戸の会社に所属しながらも、徳島で在宅勤務するスタイルをやっていらっしゃるということですね。大西さんが住みたい場所でやりたい仕事に挑戦できたということですよね。地方だと、やりたい仕事がないという問題もあったかもしれませんが、リモートで働けるようになることで、地方や自分の生まれ故郷でもやりたい仕事に挑戦できるような時代になったのだなと、お話を聞いて思います。
都心の会社に所属して、給与水準はそのまま維持しながら、住む拠点として、住み慣れたふるさとに戻る、田舎を選択するという働き方も、新しい働き方として、今後も増えていくのでしょうね。私も東京の仕事をリモートでしているので、そういった働き方を実践している1人でもあります。
大西さんは、所属が徳島以外ということで、ますます徳島への愛情を持つようになったとお聞きしているのですが、その辺はどうでしょうか?
大西翔太:徳島というのは、自分のアイデンティティの一つかなと思っています。サッカー好きの同僚と話をする時もあるのですが、徳島ヴォルティスのことをよく話しています。また、毎年夏になると、すだちを差し入れしたりしています。
松坂智美:徳島が好きだという思いがすごく伝わってきたのですが、そんな大西さんだからこそ、今後目指したいことがあるとお聞きしています。どのようなことですか?
大西翔太:会社員としては、徳島に拠点を作って、徳島の企業にもセキュリティの重要性を拡げていきたいと思っています。個人事業主としても独立開業をしているので、個人的に徳島の企業に対して支援できることを模索していきたいです。徳島のセキュリティ分野は、都心のように活発ではないですが、非常に重要だと思っています。徳島でセキュリティといえば大西だと思っていただけるよう頑張っていきたいです。そして、徳島は非常にゼロイチを活かしやすい環境であると感じます。
また、地方のセキュリティ意識向上を目指して、徳島県でサイバーセキュリティのコミュニティを立ち上げています。月に1回ほど勉強会を開催していて、徐々に参加者も増えてきています。その中で、繋がりが増えてきたことを実感することも多く、今後より多くの方にご参加いただけるように、様々な取り組みを考えていきたいと思っています。
松坂智美:徳島も、IT関連の産業がないわけではないので、セキュリティ分野のスペシャリストがたくさん生まれてくるような、そんな場所になったらいいなと思います。さらに、居場所作りの活動もされているとお聞きしたのですが、それはどんなことをしているのですか?
大西翔太:はい。様々な方と繋がりを作る目的で、月に1回晩御飯を食べながら交流する徳島ITもぐもぐ会を開催しています。今、テレワークや在宅勤務が中心で、同僚や社外の方と実際に会ってコミュニケーションを取ることが減ってきたと思います。繋がりを作ることがなかなか難しく、孤独を感じてしまうこともあると思います。私もそのうちの1人です。
また、テレワーク経験者の方が会社の所属は都心のままで、徳島へ帰ってくることもしやすくなってきていますので、今後はそういった「転職なき移住者」も増えてくると思います。ただ、所属先が現地にない人にとっては、居場所づくりが難しいため、そういった人たちのための、居場所作りをしたいと思い、月に1回ですがそのような活動をしています。
松坂智美:いいですね。私はラジオさせてもらうなど、地元と関わることにも挑戦しています。しかし、フルタイムで都心の仕事をしている方は、田舎に居場所を見つけるのは大変だと思います。地方での新しい生き方、他県の会社に所属しながらリモートワークで働くという、転職なき移住の体現をされている大西さん。また、その中でも自分の強み(セキュリティ)を活かしながら、ゼロイチを生み出そうとしていて、さらにそういった転職なき移住者の集まれる場づくりを目指す、本当に素晴らしい取り組みですね。
そして、あまり語られることのない男性目線からの家事・育児への参加について、お聞きする非常に貴重な機会となりました。男性の労働環境の見直しも、男女共同参画に置いては非常に重要であると思います。育休も重要ですが、日ごろから家事に関わりやすい機会を作り、男性も自然に家事・育児ができる環境があることが大切ですね。その解決方法として、在宅勤務という働き方は、男性の家事・育児の参加率を高める秘訣の1つではないかと思っています。また、在宅勤務で働く人が非常に増えているので、これからの未来に期待が持てそうですね。