働くことの意味は、「対価」を得るためでしょうか?「やりがい」のためでしょうか?
「対価を得る」ことは、ほとんどすべての人が重要だと考えていると思います。生活ができなければ仕事を続けることもできません。しかし、それに加えて「やりがい」を求める人もいます。
転職のご支援をしていても、「やりがい」を重視する人もいれば、重視せずに「対価」のためだと割り切って働いていると話す人もいます。
どのようなプロセスで、人は「やりがい」を持ったり、あるいは「対価のため」と割り切ったりするようになるのでしょうか。何のために働くのかを、「働くことの意味づけ」と呼ぶことありますが、その成長モデルをご紹介します。
新入社員(1~3年)はがむしゃらに働く
「働くことの意味づけ」がなされるのは、入社して3年ほどの間が多いようです。かなり早い時期に行われるようです。そのような意味では、入社してからの3年間は非常に大切です。これは中途入社したばかりの方にも該当すると思います。
多くの人にとって入社して間もない時期は、必死に仕事をこなし、ただただがむしゃらに頑張る時期だと思います。思い描いていた自分の姿より泥くさく感じて、理想と現実のギャップにショックを受けてしまうこともあります。仕事を始めると、必ず何かしらの「不満」や「ストレス」を感じると思います。
実はこの時に感じる「不満」「ストレス」から働くことの意味を模索し始めます。
「なんでこんなことをさせられているのだろう?」と自問自答を繰り返すことが働くことの意味を模索する出発点です。
この期間に、仕事の中に楽しさを見つけ、または成長の実感を得られると、仕事の意味づけに成功します。
一方で、それができなかった場合は仕事を割り切って捉えるようになり、「給与」などの条件のみを重視する意味づけがなされます。 どちらが良いかは人それぞれだと思いますが、仕事を楽しみたい、仕事を通じて成長したいと考えている人は、単に経験を積むだけでなく、成長の実感や自分の目的につながっているという感覚を持つことが大切です。
5年働くと仕事のポリシーを持つ
では、仕事の意味付けに成功した人はどのように成長していくでしょうか。
仕事に自分なりの意味を見つけた人が5年以上働くと、「仕事理念の確立」に成功するようです。つまり、自分なりの仕事の信念を持つようになる、ということです。
例えば「どんな仕事をするかではなく、自分がどのような姿勢で仕事に取り組むかが重要」という感覚がそうです。人それぞれ異なる「やりがい」の中身も具体的になっているはずです。「自分にとって働くとは何か?」という問いに対して、自分なりの考えを持てている人は、仕事の意味づけに成功していると言えます。
どうでしょうか。自分なりに「働くとは何か?」という問いにこたえられるでしょうか?
仕事理念を確立する過程では、「経験や気づきが生きている実感」も生まれています。例えば、「これまでやってきたことが今につながっている」という感覚です。点と点だった経験が線になりつながる感覚ともいえるかもしれません。この感覚を持っている人は、仕事理念を言葉にできなくても、感覚としての仕事理念を確立しているといえます。
「自分が経験してきたことが今につながっている実感」を持てているかどうか、振り返ってみてください。
10年以上働くと、目線が変わる
このようなプロセスを経て10年以上働くと、「組織」で働くことの意味づけがなされます。自分中心だった視点が組織からの視点へと変わります。組織に貢献したいとか、お客様に貢献したいという組織行動につながっていきます。「経営者目線」ともいえると思います。
さらに、組織だけでなく、社会への広がりが生まれることもあります。社会貢献、地域貢献を意識するようになるということです。仕事を離れたプライベートの行動にも仕事の価値観があらわれて、生き方にも変化が生まれます。
「対価」つまり、給料だけにこだわると、このような価値観の変化や成長は起きにくいと思います。現在、仕事の意味を見出せず、悩んでいる人は、自分なりに働く意味を模索している状況かもしれません。自分の価値観を作る期間だとポジティブにとらえてください。 この成長モデルも参考になると思います。実際に働く数十人を対象としたインタビューを行い、その分析を通じて得られたものですので、正解とは限りませんが、道標になると思います。
転職活動において必要な思考とは?
仕事にやりがいを求める人と給与で割り切って考える人はどちらが転職活動において有利な思考になるでしょうか?
こちらは研究の成果ではありませんが、私たちの経験則でお伝えしたいと思います。
ミドル世代で、管理職や経営層に近いポジションでの転職を志望している方は、「仕事にやりがい」を感じる方がより転職成功しやすいと感じます。
特に、40代・50代の方は経営者視点をもっていることは非常に重要な要素です。
「私は生活のために〇〇円以上は必要です」という方よりも「年収〇〇円に見合う対価として、私を採用することでこのようなことを実現できます」とおっしゃる方が採用されやすいように感じます。
一方、「対価」にこだわった人材の転職活動に成功される方もいっしゃいます。
それは、市場価値の高い専門的な資格やスキルをお持ちの方の場合です。自分の仕事に対しての対価(給与)が明確に理解できているため、「最低限いくらはほしいです」と明確におっしゃられますし、市場価値が高いため、転職活動に成功する確率が非常に高い傾向にあります。
いずれかのタイミングで、転職を検討される方は、「自分にとって働くとは何か?」という問いに対して、自分なりの考えを持つことを意識するか、市場価値の高い資格や技能を身に着けられることをお勧めします。
【参考】
正木 澄江, 岡田 昌毅『企業従業員の働くことの意味醸成プロセスに関する探索的検討』産業・組織心理学研究 2014 年,第 28 巻,第 1 号,43-57 正木 澄江, 岡田 昌毅『若手従業員の働くことの意味づけの移行に関する縦断的検討』経営行動科学第 29 巻第 2・3 号,2016,103-114