2024年5月7日、労務行政研究所が東証プライム企業に実施した新入社員の初任給調査の速報を発表しました。1604社中回答があった152社のうち、8割を超える企業で「全学歴」を対象に給与引き上げを実施し、過去10年で最多の初任給引き上げとなったようです。
また、厚生労働省の調査データである「賃金構造基本統計調査」によると、大学初任給の前年度比増加率は、1995~2022年には2%未満でしたが、2023年には3.9%となり、30年ぶりに2%を超えたそうです。
初任給引き上げは、もちろん徳島の企業の新卒の初任給や新卒採用状況そのものへの影響計り知れません。
ムツビエージェント独自調査にて、徳島県の2025年度新卒採用予定企業の初任給月給の平均や月給の分布図なども作成、県内での水準の確認や全国との比較も行っていますので、ご参考にいただければと思います。
停滞が続いていた大卒初任給
まず、初任給の変遷について改めて解説します。
大卒初任給の前年度比増加率は、1995~2022年は2%未満となり、大学初任給は大きな変動がなかったようです。そして、大きな変動があったのが2023年。初めて前年度比増加率が、3.9%となり30年ぶりに2%を超えることになりました。
1995年~2022年、大学卒業年度で言えば、昭和47年生(1972年)~平成11年生(1999年)の方、年齢でいうと52歳~25歳(2024年時点)の初任給がほとんど変わっていないかったということです。
その間、社会保険料や住民税、消費税が引き上げられましたので、実質手取り額は減少し続けているという状況です。
私も1981年生まれ、採用活動に関わりだしてから気づけば、20年近くたちますが、初任給の変化をあまり感じず、またそれが当たり前のように思っていました。しかし、税率が上がる中、初任給の変化がない若者にとっては上の世代よりも手取り額が少なく、苦しい現状となっていることを改めて感じています。
若者が結婚に対して前向きではないことが社会課題にもなっていますが、生活基盤を作るための所得(初任給)を上げることはとても重要なことだと感じます。
実質賃金、24ヶ月連続マイナス
また2024年3月時点で、賃金から物価の影響を除いた実質賃金は24ヶ月連続のマイナスになったようです。
1人あたりの賃金は物価を考慮した実質で前年同月から2.5%減少し、名目賃金を示す1人あたりの現金給与総額は0.6%増加となり、物価の上昇が賃金の伸びを上回っている状況となります。
長らく採用に携わる中で、「賃金にこだわる人材は、賃金の多寡で転職をする。仕事の本質に魅力ややりがいを感じる人材を採用したい」「企業の社風を理解した人材を採用したい」というお声を聞いてきましたし、その通りだと思う面もありますが、税率引き上げによる可処分所得の減少、物価高に対して、初任給引き上げは企業が取るべき妥当な対策だと感じます。
2024年度の初任給水準
労務行政研究所の調査による、東証プライム上場企業152社の学歴別の2024年度の初任給水準をご紹介します。東証プライム上場企業かつ限られた企業数の中での水準なので、高い給与水準となってはいると思いますが、新卒採用を行う企業様は、参考にいただけると思います。
・高校卒で19万3427円(23年度18万1565円)
・短大卒で20万5887円(23年度19万3800円)
・大学卒で23万9078円(23年度22万6732円)
・大学院修士卒では25万9228円(23年度24万4790円)
昇給の上昇率はいずれも5%を上回り、上昇額の平均は、高卒、短大、大卒は1万2000円前後、大学院修士卒は約1万4000円と少し高かったようです。
●最多の上昇額
初任給の上昇額の分布を見ると、どの学歴でも1万〜1万2000円未満が最多となりました。
●初任給の上昇額が1万2000円未満の割合
高卒で51.7%、短大卒で46.7%、大卒で43.2%、大学院修士卒で37%という数字から見ても、学歴が高いほど、初任給の上昇額が大きい割合が高い様子がうかがえます。
●最高上昇額
高卒で3万8200円、短大卒で3万2600円、大学卒で3万8200円、大学院卒で5万2200円と大幅な上昇を行う企業もあるようです。
徳島の企業の初任給の平均や給与帯の分布図
それでは、徳島の企業の初任給平均を見ていきましょう。上場企業や全国企業との比較も行っています。
◎対象求人について
・徳島県が本社の企業に限定とし、対象企業数は135社
・求人数は職種ごとにカウントとし、求人件数は277件(徳島県外勤務の求人は除く)
・2025年度の新卒採用のマイナビとリクナビからの調査
・大学卒の初任給に限定
◎給与について
詳細については、手当を除く基本月給で比較。
それでは、2025年度新卒採用における月給について調査データをお伝えします。
●月給の平均
2025年度卒の徳島の基本月給の手当を含む月給と手当を含まない基本月給の平均を出しています。基本月給は、192,390円。手当を含む月給総額の平均は、205,735円となりました。
東証プライム上場企業の初任給として、大学卒で23万9078円(24年度)となりますので、(徳島は25年度卒)大手企業との初任給の格差が開いていることがわかります。
●基本月給の中央値
徳島県内の基本月給の中央値は、「19万円~20万円代」となり全体の40.3%を占めています。次いで、「16万円~18万円代」の31.9%、「21万円代~25万円代」は22.5%となります。
帝国データバンクの全国1046社のアンケートによると、2024年度の初任給は、「20~24万円」が 57.4%で最も多く、次いで「15~19万円」が 33.3%、「25~29万円」が7.2%、「15万円未満」が1.9%、「30万円以上」が0.2%となったそうです。
全国的に比較しても、徳島の初任給については1万円くらいが低めになっているようです。
徳島には、基本月給が12万円代~15万円代の企業が5.4%ありますが、別途手当をもうけているケースもあるようですが、基本給が15万円代以下の企業の新卒採用はやや困難な状況に陥るかもしれません。
上場企業で早期退職が増える一方、早期退職がなく長期で働きやすい徳島
徳島の企業の初任給月給は全国と比較するとやや低めという実態が浮き上がりました。一方で、若手の優秀な人材を確保し、構造改革を行うために、一部の上場企業では早期退職を募るケースが増えています。
実際、資生堂は45歳以上かつ勤続20年以上の社員約1500人を、オムロンも国内外で約2000人(国内は1000人)を対象に早期退職を募集、コニカミノルタも2025年3月末までに国内外で2400人の人員削減を計画しているそうです。
東京商工リサーチによると、2024年4月23日の段階で「早期・希望退職者」の募集が判明した国内の上場企業は21社。対象人数(国内)は3724人(前年同期1236人)で、前年同期の3倍に達しているそうです。
このペースで進むと、2024年は、2023年の年間実績である3161人を大きく上回り、年間1万人超で早期退職が進む可能性があるとのことです。
徳島では、定年雇用を延長し、60代~、時には70代の方もご活躍されていることもあります。初任給はやや低めですが、長らく働くことができる徳島は、安心して働ける環境があるともいえるかもしれません。
しかしながら、最近のニュースでも2050年に徳島県の人口は今より30%以上減少し、48万人あまりになるという推計を国の研究所が発表するなど、徳島の急激な人口減少が予測されています。
徳島の各社が新卒・若手への給与配分を高めることで、採用競争力を高め、地域で働く若者が増えるという循環ができることが理想の一つだと感じます。