
2025年1月15日、第172回直木賞が発表され、伊与原 新さんの「藍を継ぐ海」が選ばれました。
5篇の短編集から成る本作品の表題作「藍を継ぐ海」は、ウミガメの産卵地である徳島県の姫ヶ浦という漁村が舞台ととなっており、本作品が直木賞を受賞したニュースに、徳島が湧きました。
著者の伊与原 新さんは、大阪・吹田市生まれの52歳。東京大学大学院で地球惑星科学を専攻し、その後、富山大学で助教を務めていた頃に小説を書き始めました。2010年作家デビューし、NHKでドラマ化された「宙わたる教室」など、科学をテーマにしたミステリーや青春小説を次々と発表。直木賞は2回目の候補での受賞となりました。
父方の祖父が海陽町宍喰地区出身だという伊予原さん。「藍を継ぐ海」を書くにあたり、蒲生田岬から日和佐地区一帯を訪れたと言います。
「徳島県南部はとても身近に感じる土地なので、ぜひ徳島県の皆さんにもこの作品を読んでいただきたい。」
直木賞が決まった後の記者会見でそう話されており、徳島県民としてとても嬉しく誇らしい気持ちになりました。

無機質な科学と文学の融合、人間の内面のうごめく感情に目を向ける
「藍を継ぐ海」には、日本各地を舞台に、その土地土地が有する歴史や自然などをモチーフとした5編の短編が収められています。各舞台が実在する場所で、本作品の受賞は、全国各地でお祝いムードを巻き起こしました。
作者の専門分野である無機質な科学が題材としてありそこに文学が合わさることで、自然の摂理と人間の内面でうごめく感情に目を向けさせてくれる作品となっています。
短編にはそれぞれの主人公の物語が描かれています。
●「藍を継ぐ海」アカウミガメ産卵に関する環境と生物学(徳島県)
徳島の海辺の小さな町で、なんとかウミガメの卵を孵化させ、自分ひとりの力で育てようとする、祖父と二人暮らしの中学生の女の子
●「夢化けの島」陶器の発色における化学反応(山口県)
山口の見島で、萩焼に絶妙な色味を出すという伝説の土を探す元カメラマンの男
●「狼犬(おおかみけん)ダイアリー」ニホンオオカミにまつわる生物学(奈良県)
都会から逃れ移住した奈良の山奥で、ニホンオオカミに「出会った」ウェブデザイナーの女性
●「祈りの破片」岩石やガラス製品における鉱物学(長崎県)
長崎の空き家で、膨大な量の謎の岩石やガラス製品を発見した若手公務員
●「星隕つ駅逓」隕石の探索に関わる天文学(北海道)
年老いた父親のために隕石を拾った場所を偽ろうとする北海道の身重の女性
読後の感想
ウミガメが、体内に方位磁石を持ち方角を把握しながら長い距離を何十年もかけて移動し、自分たちの産卵地へ戻る神秘性について、地磁気という科学的な根拠をもって描かれています。科学が長年の営みであり、その未来に誰かが価値を見出していく科学の奥深さを感じました。
中学生ならではの、狭い世界が自分の世界の全てだと感じてしまう独特の閉塞的な感情は、大人になり振り返ると自分にもあったような気がします。その独特の感情と、実は外に存在する広い世界と悠久な時間の流れを、科学と文学の融合で見事に表現していると感じました。
読み進めている中で、なぜおじいちゃんと二人暮らしなんだろう?なぜ、条例違反をするなど危険を感じてまで、ウミガメの卵を採取して孵化して育てようとするのだろう?と疑問も湧いてくるのですが、それについて、感傷的になりすぎず事実として物語が綴られています。読む側に感情を委ねられることで、心地よく読み進めることができました。
徳島県の祝福モード
書店では特設のコーナーが設けられ、多くの方がこの作品に触れることとなりました。

「藍を継ぐ海」に登場する、徳島県美波町の、世界でも珍しいウミガメ専門の博物館「日和佐うみがめ博物館カレッタ」では、受賞をきっかけにウミガメへの関心が高まることに期待を寄せています。
現在「日和佐うみがめ博物館カレッタ」は、全面リニューアル工事のため休館していますが、2025年夏ごろに開館する見込みです!

美波町の日和佐図書・資料館では、「藍を継ぐ海」が直木賞候補になった2024年12月中旬から伊与原さんコーナーが設置されました。

改めて、伊予原新さん、直木賞受賞おめでとうございます!!
■書籍データ
【タイトル】藍を継ぐ海
【著者名】伊与原新
【発売日】9月26日
【造本】ソフトカバー
【定価】1,760円(税込)
【ISBN】978-4-10-336214-2
【URL】新潮社https://www.shinchosha.co.jp/book/336214/
参照
PR TIMES:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001841.000047877.html
好書好日 https://book.asahi.com/article/15507489
NHK徳島放送局 https://www.nhk.or.jp/tokushima/lreport/articles/300/208/43/
紀伊国屋書店 https://x.com/Kino_Tokushima/status/1879473679933010189
美波町 日和佐図書・資料館 https://www.town.minami.lg.jp/docs/4579381.html
日和佐うみがめ博物館カレッタ https://x.com/caretta3
