少子高齢化や生産年齢人口の減少によって、人手不足が深刻化している日本。なかでも農業や漁業、林業といった第一次産業の担い手不足が大きな問題となっています。
農業に注目すると……。農林水産省の『農業労働力に関する統計』によると、仕事として農業に従事している「基幹的農業従事者」は、平成27年(2015年)の175.7万人から、8年後の令和5年(2023年)には116.4万人にまで減少。
平成27年には67.1歳だった平均年齢も年々上昇し、令和5年には68.7歳に。高齢化が著しく、近年の猛暑の影響で、農作業中に熱中症で倒れてしまう人も増えているといいます。
そんな中、人手不足を解消する新たな取り組みが行われています。企業においても人手不足が続くなか、参考になるアイデアかと思いますので、ご紹介します。
取り組みの紹介 ―県外からの旅人が、なると金時の収穫をお手伝い―
徳島県が誇るさつまいものブランド「なると金時」。その一大産地である鳴門市も、繁忙期の人手不足や新たな担い手の確保など、日本各地の農業現場が抱える課題に直面しています。
そこで、鳴門市とJA里浦は「おてつたび」を活用して短期アルバイトを募集しました。
「おてつたび」とは、“お手伝い”と“旅”を掛け合わせた人材マッチングサイト。人手不足に悩む地域事業者(旅館、ホテル、農家など)と、働きながら旅を楽しみたい人をつなぐサービスです。
7/22~8/5には、東京都や神奈川県などから18~42歳の6人が来県。鳴門市里浦町の4つの農園で、なると金時の収穫や出荷作業を行いました。
参加者たちは、市が用意した個室つきシェアハウス(滞在費無料!)で生活します。
農作業は午前中のみ。午後は、無料貸出の自転車で鳴門市を観光したり、シェアハウスで暮らす参加者同士で交流して、自分の将来についてじっくり考えたり。農業と他のやりたいことを掛けあわせた新しいライフスタイル「半農半X」を体現しています。
これから10月にかけて、さらに約20名が6農園を手伝う予定。今後、ラッキョウや青首ダイコンといった農作物や観光業など、他の業種でも受け入れを企画しています。
旅と仕事に広がる新しい価値観
こうした動きの背景には、旅に対する価値観の変化があります。
これまでの旅といえば、観光地を訪れて名所を見て回る…という形がスタンダードでした。
しかし近年では、地場産業の体験や地域住民との交流を通して、より深く地域の魅力に触れる「体験型観光」を求める旅行者が増えています。
「その土地ならではの体験をしたい」「唯一無二の特別な旅をしたい」というニーズは、SNSの普及やコロナ禍を経ていっそう高まっています。
また、コロナ禍を経てそれぞれが自身の仕事や暮らしを見つめ直した結果、東京圏在住者を中心に、地方移住や第一次産業への関心が広がっています。
さらにここ数年で、スキマバイトアプリ「Timee(タイミ―)」や、フードデリバリーサービス「Uber Eats(ウーバーイーツ)」の配達員に代表される、単発・短時間・短期間で働くスポットワークの需要が急増。働き方の多様化も、「おてつたび」のようなサービスにとっての追い風となっています。
旅人と受入事業者、双方にとってwin-winの形で人手不足を解消できる画期的な仕組み。こうしたサービスを上手く活用してファンを作り、関係人口の創出につなげる地域や事業者が増えています。実際に「おてつたび」がきっかけとなり、参加者の継続的な来訪や移住につながった事例も生まれているようです。
地方ならではの魅力を活かして、人材不足にアプローチ
東京圏では土地の価格が高騰し、住まいやオフィスなどの賃料も上昇中。一方で、賃金アップも進む傾向にあり、東京一極集中が加速しています。
地方の中小企業にとって、賃金アップはすぐには実現が難しいかもしれません。しかし、徳島の豊かな自然を活かした福利厚生を充実させるなど、地方ならではの価値を提供することが、都心の人材を呼び込むきっかけとなり、人手不足解消のヒントにつながるのではないでしょうか。
※参考
・農林水産省.「農業労働力に関する統計」.
https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/08.html
・「なると金時収穫の助っ人 半農半X 参加続々」.徳島新聞.2024-08-03,朝刊,p.24.
・おてつたび
https://otetsutabi.com